大田殿女房御返事

〔C6・弘安元年九月二四日・大田殿女房〕/八木一石〈付十合〉。者(ていれば)大旱魃の代に、かはける物に水をほどこしては、大竜王と生まれて雨をふらして人天をやしなう。うゑたる代に、食をほどこせる人は国王と生まれて其の国ゆたかなり。過去の世に金色と申す大王ましましき。其の国をば波羅奈国と申す。十二年が間、旱魃ゆきて人民うゑ死ぬ事おびただし。宅中には死人充満し、道路には骸骨充満せり。其の時、大王一切衆生をあはれみて、おおくの蔵をひらきて施をほどこし給ひき。蔵の中の財つきて唯一日の供御のみのこりて候ひし。衆僧をあつめて供養をなし、王と后と衆僧と万民と皆うゑ死なんとせし程に、天より飲食雨のごとくふりて大国一時に富貴せりと、金色王経にとかれて候。此れも又かくのごとし。此の供養によりて現世には福人となり、後生には霊山浄土へまいらせ給ふべし。/日蓮花押/大田殿女房御返事