下方他方旧住菩薩事

〔C0・弘安元年・富木常忍か〕/┌─文句の九に云く┌過八恒河沙等/││┌───文殊等八万なり/└─菩薩に三種有り。下方・他方・旧住/│└───弥勒等/└亦観音等、他方の内なり。普賢は如何/文句の九に云く「是れ我が弟子なり。我が法を弘むべし」。/記の九に云く「子、父の法を弘むるに世界の益有り」。/文句の九に云く「又他方〈観音等は他方か〉は此土結縁の事浅し」文。/記の六に付属、下有り此れ有り〈法華・涅槃の十六異を釈するなり〉/道暹補正記の六に云く「付属とは、此の経は唯下方涌出の菩薩に付す。何が故に爾る。法是れ久成の法なるに由るが故に久成の人に付す」。/記の四に云く「尚偏に他方の菩薩に付せず。豈に独り身子のみならん」。竜樹・天親・南岳・天台・伝教等本門を弘通せざる事。/一には付属せざるが故に。二には時の来たらざるが故に。三には迹化他方なるが故に。四には機未だ堪えざる故に。竜樹は纔かに迹門の意を宣べ、天親は文に約して之れを釈し、化導の始終を明かさず。天台大師は本迹の始終を弘通す。但し本門の三学は未だ分明ならざるか。/記の八に云く「因薬王等とは、本(もと)薬王に託し、茲に因せて余に告ぐ。此れ流通の初めなり。先づ告八万大士とは、大論に云く、法華は是れ秘密なれば諸の菩薩に付す」。今下の文に下方を召すが如きは、尚本眷属を待つ。験(あきら)けし、余は未だ堪えざることを。/大論の一百に云く「問うて曰く、更に何れの法か甚深にして般若に勝れたる者有りて、而も般若を以て阿難に属累し、余経をもて菩薩に属累すること有りや。答へて曰く、般若波羅蜜は秘密の法に非ず。而して法華等の諸経に阿羅漢の受決作仏を説くは、大菩薩、能く受持し用ゐる。譬へば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」。/竜樹菩薩は迹化他方なるか、旧住なるか、地涌なるか。南岳〈観音、感通伝に出づ〉、天台〈薬王、感通伝に出づ〉、伝教も亦是の如し。大論の一百に云く〈大品経は阿難に付属す。大品経属累品を釈するなり。大品経四十巻九十品最後の属累品なり〉「問うて曰く、若し爾らば法華経諸余の方等経、何を以て喜王〈喜王とは薬王か〉諸菩薩等に属累するや」。/記の八に云く「法華は是れ秘密なれば諸の菩薩に付す。今の下の文に下方を召すが如きは、尚本眷属を待つ。余は未だ堪えず」云云〈文殊・薬王等を未だ堪えず等と云ふか〉。/涅槃経の三に云く「若し法宝を以て阿難及び諸の比丘に付属せば、久住することを得ず。何を以ての故に、一切の声聞及び大迦葉は悉く当に無常なるべし。彼の老人の他の寄物を受くるが如し。是の故に応に無上の仏法を以て諸の菩薩に付すべし。諸の菩薩は善能(よく)問答するを以て、是の如き法宝は則ち久住することを得て、無量千世に増益熾盛(さかん)に衆生を利安すべし」。