上野殿御返事2

〔C2・建治三年七月一六日・南条時光〕/むぎ(麦)ひとひつ(一櫃)、かわのり五条、はじかみ(薑)六は(把)給はり了んぬ。/いつもの御事に候へばをどろかれず、めづらしからぬやうにうちをぼへて候は、ぼむぶ(凡夫)の心なり。せけん(世間)そうそうなる上、ををみや(大宮)のつくられさせ給へば、百姓と申し、我が内の者と申し、けかち(飢渇)と申し、ものつくりと申し、いくそばくこそいとまなく御わたりにて候らむに、山のなかのすまい(住居)さこそとをもひやらせ給ひて、とりのかいご(卵子)をやしなうがごとく、ともしび(灯)にあぶら(油)をそうるがごとく、か(枯)れたるくさ(草)にあめ(雨)のふるがごとく、う(飢)へたる子にち(乳)をあたうるがごとく、法華経の御いのちをつがせ給ふ事、三世の諸仏を供養し給へるにてあるなり。十方の衆生の眼を開く功徳にて候べし。尊しとも申す計りなし。あなかしこあなかしこ。恐々謹言。/(建治三年)七月十六日日蓮(花押)/進上上野殿御返事