弁殿御返事

〔C0・文永一〇年九月一九日・日昭及び妙一尼〕/しげければとどむ。弁殿に申す。大師講ををこなうべし。大師とてまいらせて候。三郎左衛門尉殿に候文のなかに、涅槃経の後分二巻・文句五の本末・授決集の抄の上巻等、御随身あるべし。/貞任は十二年にやぶれぬ。将門は八年にかたぶきぬ。第六天の魔王、十軍のいくさををこして、法華経の行者と生死海の海中にして、同居穢土をとられじ、うばはんとあらそう。日蓮其の身にあひあたりて、大兵ををこして二十余年なり。日蓮一度もしりぞく心なし。しかりといえども、弟子等・檀那等の中に臆病のもの、大体或はをち、或は退転の心あり。尼ごぜんの一文不通の小心に、いままでしりぞかせ給はぬ事申すばかりなし。其の上、自身のつかうべきところに、下人を一人つけられて候事、定めて釈迦・多宝・十方分身の諸仏も御知見あるか。恐々謹言。/九月十九日日蓮(花押)/弁殿、尼御前に申させ給へ。