土籠御書

〔C6・文永八年一〇月九日・日朗〕/日蓮は明日佐渡の国へまかるなり。今夜のさむきに付けても、ろう(牢)のうちのありさま、思ひやられていたはしくこそ候へ。あわれ殿は、法華経一部を色心二法共にあそばしたる御身なれば、父母・六親・一切衆生をもたすけ給ふべき御身なり。法華経を余人のよみ候は、口ばかりことば(言)ばかりはよめども心はよまず。心はよめども身によまず。色心二法共にあそばされたるこそ貴く候へ。「天諸童子以為給使刀杖不加毒不能害」と説かれて候へば、別の事はあるべからず。籠をばし出でさせ給ひ候はば、とくとくきたり給へ。見たてまつり、見えたてまつらん。恐々謹言。/文永八年〈辛未〉十月九日日蓮花押/筑後殿