上野殿御返事

〔C4・弘安二年八月八日・南条時光〕/鵞目一貫・しほ(塩)一たわら(俵)・蹲鴟(いものかしら)一俵・はじかみ(薑)少々、使者をもて送り給び了んぬ。あつきには水を財とす。さむきには火を財とす。けかち(飢渇)には米を財とす。いくさ(軍)には兵杖を財とす。海には船を財とす。山には馬をたからとす。武蔵・下総には石を財とす。此の山中にはいえのいも(芋)・海のしほ(塩)を財とし候ぞ。竹の子・木の子等候へども、しほ(塩)なければそのあぢわひつち(土)のごとし。又金と申すもの国王も財とし、民も財とす。たとへば米のごとし、一切衆生のいのち(命)なり。ぜに(銭)又かくのごとし。漢土に銅山と申す山あり。彼の山よりいでて候ぜに(銭)なれば、一文も千文もみな三千里の海をわたりて来るものなり。万人皆たま(玉)とおもへり。此れを法華経にまいらせさせ給ふ。/釈まなん(摩男)と申せし人のたな心には、石変じて珠となる。金ぞく(粟)王は沙を金となせり。法華経は草木を仏となし給ふ、いわうや心あらん人をや。法華経は焼種の二乗を仏となし給ふ、いわうや生種の人をや。法華経は一闡提を仏となし給ふ。いわうや信ずるものをや。事々つくしがたく候、又々申すべし。恐々謹言。/(弘安二年)八月八日日蓮花押/上野殿御返事