乗明聖人御返事

〔C0・建治三年四月一二日・大田乗明〕/相州の鎌倉より青鳧二結、甲州身延の嶺に送り遣はされ候ひ了んぬ。昔金珠女は金銭一文を木像の薄と為し、九十一劫金色の身と為りき。其の夫の金師は今の迦葉、未来の光明如来是れなり。今の乗明法師妙日並びに妻女は銅銭二千枚を法華経に供養す。彼れは仏なり此れは経なり。経は師なり仏は弟子なり。涅槃経に云く「諸仏の師とする所は所謂法なり。乃至、是の故に諸仏恭敬供養す」。法華経の第七に云く「若し復人有りて、七宝を以て三千大千世界に満てて、仏及び大菩薩・辟支仏・阿羅漢を供養せん。是の人の得る所の功徳、此の法華経の、乃至一四句偈を受持する、その福の最も多きには如かじ」。夫れ劣れる仏を供養する尚九十一劫に金色の身と為りぬ。勝れたる経を供養する施主、一生に仏位に入らざらんや。但真言禅宗・念仏者等の謗法の供養を除き去るべし。譬へば修羅を崇重しながら帝釈を帰敬するが如きのみ。恐々謹言。/卯月十二日日蓮(花押)/乗明聖人御返事