行敏御返事

〔C2・文永八年七月一三日・行敏〕/行敏初度の難状/未だ見参に入らずと雖も、事の次(ついで)を以て申し承るは常の習ひに候か。抑風聞の如くんば所立の義尤も以て不審なり。法華の前に説ける一切の諸経は皆是れ妄語にして出離の法に非ずと〈是一〉。大小の戒律は世間を誑惑して悪道に堕せしむるの法と〈是二〉。念仏は無間地獄の業為りと〈是三〉。禅宗は天魔の説若し依りて行ずる者は悪見を増長すと〈是四〉。事若し実ならば仏法の怨敵なり。仍って対面を遂げて悪見を破らんと欲す。将又其の義無くんば争でか悪名を被らざらん。痛ましき哉。是非に付き委しく示し給ふべきなり。恐々謹言。/七月八日僧行敏在判/日蓮阿闍梨御房/条々御不審の事、私の問答は事行き難く候か。然れば上奏を経られ、仰せ下さるるの趣に随ひて、是非を糾明せらるべく候か。此の如く仰せを蒙り候条尤も庶幾する所に候。恐々謹言。/七月十三日日蓮花押/行敏御房御返事