右衛門大夫殿御返事

〔C6・弘安二年一二月三日・池上宗仲〕/抑久しく申し承らず候の処に御文到来候ひ畢んぬ。殊にあを(青)きうら(裏)の小袖一、ぼうし(帽子)一、をび(帯)一すぢ、鵞目一貫文、くり一籠たしかにうけとりまいらせ候。/当今は末法の始めの五百年に当たりて候。かかる時刻に上行菩薩御出現あって、南無妙法蓮華経の五字を日本国の一切衆生にさづけ給ふべきよし経文分明なり。又流罪死罪に行はるべきよし明らかなり。日蓮上行菩薩の御使ひにも似たり、此の法門を弘むる故に。神力品に云く「日月の光明の能く諸の幽冥を除くが如く、斯の人世間に行じて能く衆生の闇を滅す」等云云。此の経文に「斯人行世間」の五の文字の中の人の文字をば誰とか思し食す、上行菩薩の再誕の人なるべしと覚えたり。経に云く「我が滅度の後に於て応に斯の経を受持すべし。是の人仏道に於て決定して疑ひ有ること無けん」云云。貴辺も上行菩薩の化儀をたすくる人なるべし。/弘安二年〈己卯〉十二月三日日蓮花押/右衛門大夫殿御返事