兵衛志殿女房御書

〔C6・建治三年三月二日・池上宗長女房〕/先度仏器まいらせさせ給ひ候ひしが、此の度此の尼御前大事の御馬にのせさせ給ひて候由承り候。法にすぎて候御志かな。これは殿はさる事にて、女房のはからひか。昔儒童菩薩と申せし菩薩は、五茎の蓮華を五百の金銭を以てかひとり、定光菩薩を七日七夜供養し給ひき。女人あり、瞿夷となづく。二茎の蓮華を以て自ら供養して云く、凡夫にてあらん時は世々生々夫婦とならん、仏にならん時は同時に仏になるべし。此のちかひ(誓)くちずして、九十一劫の間夫婦となる。結句、儒童菩薩は今の釈迦仏、昔の瞿夷は今の耶輸多羅女、今法華経の勧持品にして具足千万光相如来是れなり。悉達太子檀特山に入り給ひしには、金泥駒・帝釈の化身、摩騰迦・竺法蘭の経を漢土に渡せしには十羅刹化して白馬となり給ふ。此の馬も法華経の道なれば、百二十年御さかへの後、霊山浄土へ乗り給ふべき御馬なり。恐々謹言。/三月二日日蓮花押/兵衛志殿女房