本尊供養御書

〔C6・建治二年一二月・南条平七郎〕/法華経御本尊御供養の御僧膳料の米一駄・蹲鴟(いものかしら)一駄送り給び候ひ畢んぬ。/法華経の文字は六万九千三百八十四字、一々の文字は我等が目には黒き文字と見え候へども仏の御眼には一々に皆御仏なり。譬へば金粟王と申せし国王は沙を金となし、釈摩男と申せし人は石を珠と成し給ふ。玉泉に入りぬる木は瑠璃と成る。大海に入りぬる水は皆鹹し。須弥山に近づく鳥は金色となるなり。阿伽陀薬は毒を薬となす。法華経の不思議も又是の如し。凡夫を仏に成し給ふ。蕪は鶉となり山の芋はうなぎとなる。世間の不思議以て是の如し。何に況や法華経の御力をや。犀の角を身に帯すれば大海に入るに水身を去る事五尺、栴檀と申す香を身にぬれば大火に入るに焼けることなし。法華経を持ちまいらせぬれば八寒地獄の水にもぬれず八熱地獄の大火にも焼けず。法華経の第七云く「火も焼くこと能はず、水も漂はすこと能はず」等云云。事多しと申せども年せまり御使ひ急ぎ候へば筆を留め候ひ畢んぬ。/建治二年〈丙子〉十二月日日蓮花押/南条平七郎殿御返事