別当御房御返事

〔C3・文永一一年四月~一一月・別当御房〕/聖密房のふみにくはしくかきて候。よりあいてきかせ給ひ候へ。なに事も二間清澄の事をば聖密房に申しあわせさせ給ふべく候か。世間のり(理)をしりたる物に候へばかう申すに候。これへの別当なんどの事はゆめゆめをもはず候。いくらほどの事に候べき。但なばかりにてこそ候はめ。又わせいつをの事、をそれ入りて候。いくほどなき事に御心ぐるしく候らんと、かへりてなげき入りて候へども、我が恩をばしりたりけりと、しらせまいらせんために候。/大名を計るものは小恥にはぢずと申して、南無妙法蓮華経の七字を日本国にひろめ、震旦・高麗までも及ぶべきよしの大願をはらみて、其の願の満たすべきしるしにや、大蒙古国の牒状しきりにありて、此の国の人ごとの大いなる歎きとみへ候。日蓮又先よりこの事をかんがへたり。閻浮第一の高名なり。先よりにくみぬるゆへに、ままこ(継子)のかうみやう(功名)のやうにせん心とは用ゐ候はねども、終に身のなげき極まり候時は、辺執のものどもも一定とかへぬとみへて候。これほどの大事をはらみて候ものの、小事をあながちに申し候べきか。但し東条は、日蓮心ざす事は生処なり。日本国よりも大切にをもひ候。例せば漢王の沛郡ををもくをぼしめししがごとし。かれ生処なるゆへなり。聖智が跡の主となるをもってしろしめせ。日本国の山寺の主ともなるべし。日蓮は閻浮第一の法華経の行者なり。天のあたへ給ふべきことわりなるべし。/米一斗六升・あはの米二升・やき米はふくろへ、それのみならず人々の御心ざし申しつくしがたく候。これはいたみをもひ候。これより後は心ぐるしくをぼしめすべからず候。よく人々にしめすべからず候。よく人々にもつたへさせ給ひ候へ。恐々謹言。/乃時。/別当御房御返事