授職潅頂口伝抄

〔C6・文永一一年二月一五日〕/日蓮之れを撰す/大乗真実の門跡、秘伝の肝心、成仏の落居、真実口伝なり〈門跡とは霊山浄土釈迦如来の門跡なり〉夫れ親り霊山浄土の二処三会の説を聞くに、本迹二門二十八品は真実の経なり。所謂二十八品は、一々文々是れ真仏、三身即一法報応の三身なり。/問ふ、一経二十八品なり。毎日の勤行我等の堪えざる所なり。如何に之れを読誦せんや。答ふ、二十八品本迹の高下勝劣浅深は教相の所談なり。今は此の義を用ゐず。仍って二経の肝心は迹門方便品・本門の寿量品なり。天台妙楽に云く「迹門の正意は実相を顕はし、本門の正意は寿の長遠を顕はすに在り」云云。/問ふ、方便寿量の二品の功徳の法門如何が意得べきや。答ふ、先づ方便品の教相を言はば、此の品の肝要は界如実相の法を説いて、三諦即是の悟りを得しむるを詮と為す。彼の十如の中には、相性体の三如是を以て正体と為す。次での如く仮空中の三諦、応報法の三身なり。余の七如是は彼の相性体の作用なり。住前住上の一心三観は此の品を悟らしむ。四十一位に皆仏界の智あり。其の智恵漸く増長して本末究竟の位に住するなり。此の相性体の三つは、能観に約せば一心三観、所観に約せば三身の覚体なり。迹門は始覚の三観三身、本門は無作の三観三身なり。心を止めて之れを案ずべし。迹門は従因向果十如十界の成仏、三周の声聞等是れなり。本門は此れ十如十界は従本垂迹、無作の十界は普現難思の行相なるべし。然れば則ち、此の品の十如十界の悟りは本迹二門に通ぜしむるなり〈已上教相所談なり〉/次に南無妙法蓮華経方便品の観心とは、一心妙法蓮華経の方便品なるが故に、三種の方便には、絶待不思議の秘妙の方便則ち我等が一心なり。十如実相も衆生の心法なり。五仏の開権顕実も我等が一念なり。仏知見に開示悟入するなり。五乗の開会も我等が一念なり。管絃歌舞の曲も起立塔像の善も皆悉く我等が一心の妙法の方便なり。南無霊山浄土釈迦牟尼如来の方便品。南無五仏顕一の方便品。南無三種の方便品。南無十如十界実相の方便品。実相は必ず諸法、諸法は必ず十如、十如は必ず十界、十界は必ず身土なり。甚深なり。/次に南無妙法蓮華経如来寿量品。夫れ二十八品は両箇大事の得益なり。所謂一心三観無作三身なり。而るに此の品より以前の十四品は、一心三観を以て始覚の三身を成ず。此の品より以下の十四品は、彼の成ずる所の三身三観を本覚無作と明かす故に、法華一部の大綱にして衆生をして成仏せしむ。行果は此の両箇を出でず。故に品々の肝要、別の才覚無きなり。此の上に迹門の境智・本門の境智・本迹不二の境智冥合・此れを思ひて定むべし。右此の品の肝要は釈尊の無作三身を明かして弟子の三身を増進せしめんと欲す。今の疏に云く「今正しく本地三仏の功徳を詮量す。故に如来寿量品と言ふなり」已上文。此の三身は無始本覚の三身なりと雖も、且く五百塵点劫の成仏を立つ。三身即三世常住なり。今弟子の始覚の三身も亦我が如く顕はして、三世常住の無作を成ずべきなり。/次に此の品の観心とは、妙法一心の如来寿量品なるが故に、我等凡夫の一念なり。一念は即ち如来久遠の本寿本地無作の三身、本極法身の本因本果の如来なり。所居の土は常在霊山、四土具足の本国土妙なり。又釈尊と我等とは本地一体不二の身なり。釈尊法華経と我等との三つは全体不思議の一法にして全く三つの差別無きなり。されば日蓮等の類並びに弟子檀那、南無妙法蓮華経と唱ふる程の者は久遠実成の本眷属妙なり。此の人の所居の土は久遠実成の本国土妙なり。釈尊霊山浄土にして、本地地涌の菩薩に授職潅頂して言く、飢時の飲食、寒時の衣服、熱時の冷風、昏時の睡眠、皆是れ本有無作の無縁の慈悲にして、利益に非ざることなし。仍って十妙異なると雖も一切功徳の法門なり。一念唯遠本寿量の妙果なり。南無常寂光の本地無作三身即一の釈迦牟尼如来、南無久遠一念の如来寿量品、南無十方法界唯一心の妙法蓮華経。/右此の二品を是の如く意得て一遍なりとも読誦すれば、我等が肉身即三身即一の法身なり。此の如く意得て至心に南無妙法蓮華経と唱ふれば、久遠本地の諸法無作の法身如来等は、皆我等が一身に来集し給ふ。是の故に慇懃の行者は分段の身を捨てても即身成仏、捨てずしても即身成仏なり。文永十一年二月十五日、霊山浄土の釈迦如来結要付属して日蓮謹んで授職潅頂するなり。妙覚より初住乃至凡夫までなり。初住より妙覚に登るなり。是れ始覚なり。我等が成仏を言ふなり。/結要付属無作の戒体即身成仏授職潅頂の次第作法/勧請し奉る五百塵点劫霊山浄土の釈迦牟尼如来/勧請し奉る五百由旬宝浄世界の多宝如来/勧請し奉る五百塵点本地地涌の上行菩薩〈已上執受戒師〉勧請し奉る本化迹化等の諸大菩薩/勧請し奉る身子目連等の諸賢聖衆/勧請し奉る日月五星の諸天善神/勧請し奉る日本国中の諸大明神/已上本体の勧請/勧請し奉る十方分身諸の釈迦牟尼仏/勧請し奉る十方常住一切の三宝衆僧/勧請し奉る自界他方無辺法界の衆生利益の仏神薩衆僧/勧請し奉る内海外海の竜神王等/勧請し奉る閻魔法皇五道の冥官神祇冥道等〈已上総勧請〉/作法受得本門円頓戒の文/寿量品長行偈頌の一巻/方便品広略顕一の一巻/証明品「此経難持」の文/神力品「如来一切所有之法」の文〈已上経文〉/天台云く「円頓者初縁実相」の文/妙楽大師云く「実相必諸法」の文/又云く「当知身土一念三千」の文伝教大師云く「正像稍過已末法太有近法華一乗機今正是其時」の文〈已上五文〉/右此の血脈は霊山浄土の釈迦如来より始めて相伝なり。二人に相伝し給ふなり。/┌─後身伝教大師─日本授職潅頂/┌─┤後身天台大師─大唐授職潅頂/││薬王菩薩───天竺授職潅頂/大恩教主釈迦牟尼如来─┤└─迹門付属───授職潅頂/│┌─本門付属───授職潅頂/└─┤上行菩薩───天竺授職潅頂/└─日蓮大徳───日本授職潅頂/右此の血脈は霊山浄土の釈迦如来より始めて三人とも相伝せざる処なり。設ひ身命に及ぶとも広宣流布の聖人に非ざれば之れを許すべからず。仍って誓願状之れ有るべきなり。/文永十一年二月十五日、霊山浄土の釈迦如来、結要付属して、日蓮謹んで授職潅頂するなり。