止観第五之事御消息

〔C0・文永六年一二月二二日・富木常忍〕/母尼ごぜんにはことに法華経の御信心のふかくましまし候なる事、悦び候と申させ給ひ候へ。止観第五の事。正月一日辰の時此れをよみはじめ候。明年は世間怱々(そうそう)なるべきよし皆人申すあひだ、一向後生のために十五日まで止観を談ぜんとし候が、文あまた候はず候。御計らひ候べきか。白米一斗御志申しつくしがたう候。鎌倉は世間かつ(渇)して候。僧はあまたをはします。過去の餓鬼道の苦をばつぐ(償)のわせ候ひぬるか。法門の事。日本国に人ごとに信ぜさせんと願して候ひしが、願や成熟せんとし候らん。当時は蒙古の勘文によりて世間やわらぎて候なり。子細ありぬと見へ候。本より信じたる人々はことに悦ぶげに候か。恐々謹言。/十二月二十二日日蓮(花押)